姫路支部総会講演会

去る6月28日、姫路支部は姫路労働会館にて支部総会を開催しました。総会終了後には、神戸大学大学院教授・太田和宏先生をお招きし、「世界とアジアをリードするASEAN」と題したご講演をいただきました。以下は、その講演の概要です。

ASEAN(東南アジア諸国連合)は1967年に設立され、現在は東南アジアの10カ国が加盟していますが、近く東ティモールの加盟が承認され、11カ国体制となる見込みです。

世界にはさまざまな軍事的・経済的同盟がありますが、太田先生は「ASEANは、先進国主導の同盟には加わりたくないという国々の集まりであり、決議や決定は全会一致を原則とする」と紹介されました。「加盟国の独自性を尊重し、話し合いによる全会一致を原則とする」という姿勢は、非常にユニークで新鮮な印象を与えます。

もっとも、域内の大国や先進国を完全に無視しているわけではありません。平和や経済発展の実現には、そうした国々との協力も不可欠です。そのため、ASEANは「ASEAN+3」という枠組みを設け、中国・日本・韓国を加えた首脳会議や外相会議を開催しています。

ASEAN加盟国の国内情勢や、ASEANを取り巻く国際環境は決して安定しているとは言えません。ミャンマーでは軍事クーデターにより軍政が敷かれ、少数民族への武力攻撃も続いています。タイもつい最近まで軍政下にありました。インドネシアでは軍人出身の大統領が就任し、報道の自由の制限や警察権限の強化など、民主主義の後退が懸念されています。

このように、東南アジアの多くの国では「人権」や「民主主義」が軽視され、少数民族の生活や安全が武力によって脅かされている現状があります。

また、各国の国際的な立場も多様です。インドネシアは自主独立を重視し、ベトナムやフィリピンはアメリカと友好関係にあり、中国とは対立しています。シンガポールやタイもアメリカとの関係が深い一方で、ラオス・カンボジア・ミャンマーは親中国的です。マレーシアも親中国ではありますが、一定の距離を保っています。

注目すべきは、中国が1970年代後半から積極的に海洋進出を進め、南シナ海のほぼ全域をカバーする「九段線」を提示し、その内側を自国の領域と主張している点です。中国は島嶼や岩礁を次々と埋め立てて開発を進め、周辺諸国との間で武力衝突を含む紛争を引き起こしています。

もちろん、周辺国の同意を得ずに埋め立てや開発を行っているのは中国だけではありませんが、中国の手法は特に強引かつ大規模であり、時には武力を用いて反対を抑え込もうとします。フィリピンはこの領有権争いを国際仲裁裁判に提訴し、中国の主張は全面的に否定される判決が下されました。

アメリカも黙って見ているわけではありません。オバマ政権以降、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略を展開し、インド・日本とともにQUAD、オーストラリア・イギリスとともにAUKUSといった枠組みを構築し、中国包囲網を形成しています。これにより、南シナ海の緊張は一層高まっています。

中国にとって南シナ海は軍事的に重要な地域であり、「一帯一路」構想の海上ルート確保も“核心的利益”と位置づけられています。そのため、同地域の開発を急ぎ、フィリピンやベトナムなどとの間で紛争が頻発しています。

ASEANは紛争解決のため、中国との間で「南シナ海行動宣言」および「行動規範」の締結を目指すことで2011年に合意しましたが、いまだに正式な締結には至っていません。

今後のASEAN

ASEANが目指すのは、「政治・安全保障」「経済」「社会・文化」の三本柱からなる統合体、すなわち「ASEAN共同体」の構築です。加盟国がより緊密に連携し、地域全体の平和と繁栄を追求することを目的としています。

  • 政治・安全保障共同体
  • 経済共同体
  • 社会・文化共同体

このASEAN共同体の構築は、東南アジア地域の安定と発展に大きく寄与することが期待されています。

ただし、EUのような完全な統合を目指すのではなく、加盟国の主権を尊重しつつ、緩やかな統合を進めていく方針です。

また、EUはキリスト教を共通の文化的基盤としていますが、ASEAN諸国はイスラム教・キリスト教・仏教など宗教的背景が多様です。宗教の違いは価値観の違いにもつながり、それを乗り越えて統一的な体制や組織を築くのは容易ではないと、太田先生は指摘されました。

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