日中両国とも相手に良くない印象を持つ人が増加
昨年10月、言論NPOが2021年の日中共同世論調査(下に添付)の結果を発表、両国とも相手に良くない印象をもつ人が増加し、親しみを感じる人よりずっと多い結果が判明しました。
なぜ中国人は日本に良くない印象をもっているのか。その理由の77%の中国人が、日本は侵略の歴史をきちんと謝罪反省していないからと答えています。これを日本のメディアはほとんど報道しません。中国の人たちが、近現代史の中の中国について被害者意識をもっていることに注意する必要があります。これは国民感情といってもよいものです。私たちは、先ずそれを認識する必要があります。
中国にとって最大の課題は、列強の脅威への対応と侵害された国家主権の回復
アヘン戦争の敗北によって香港島を英国に割譲して以来、多くの国家主権が列強によって侵害されました。日清戦争(1894~95年)で台湾も日本に奪われました。領土だけでなく上海の租界のように主権が及ばない地域も生まれました。清朝改革派でも清朝打倒をめざした革命派でも、中国にとって最大の課題は、列強の脅威への対応と侵害された国家主権の回復と考えました。
中国国民党と中国共産党という二大民族主義政党が生まれた
中華民国になっても条約は基本的に引き継がれましたから、この状況に大きな変化はありませんでした。第一次世界大戦を契機に、中国では都市の資本家や労働者、学生のような新興の階級・階層が登場してきました。ロシアでは革命(1917年)が起こりました。こうして、中国国民党と中国共産党という二大民族主義政党が生まれました。1927年には南京に国民党政府が、1949年に中華人民共和国が成立しました。
国民党の時代、日本は31年に満州事変、37年に日中全面戦争を起こし、中国を乱暴に侵略した
日本の侵略により、多大の人命が失われ、計り知れない物的損害が生じました。中国は悠久の歴史を有し、それまで東アジアの大国として君臨してきましたから、近代の屈辱は民族的なトラウマとなったのです。今でも中国で愛国主義が強く主張され、これには中国の民主派と呼ばれる人々も同調するような土壌があることを日本人は理解しなければなりません。同時に、中国はかつて大国でしたから、その版図内に多くの民族を擁し、周辺の国家や地域の宗主権をもっていました。奪われた領土の奪回や主権の回復に奮闘した国民党や共産党も、清朝の最大版図を再度実現させることが民族主義の成就であると考えがちでした。
今日、国力でアメリカに迫るまで復興した中国は、新しい大国として、国内の民族問題とともに周辺諸国・地域の人々に歓迎される関係をどのように作れるかが問われていると思います。(井上久士駿河台大学名誉教授・日中友好協会会長)