中国では今年の国慶節(建国記念日)と中秋節が重なり、10月1日から8日までの8連休となりました。連休前には「延べ23億人が移動する」との予測も発表され、中国各地の観光地は大変な賑わいとなったようです。

さて、中国国内外の観光客に人気の高い名所のひとつが、甘粛省の敦煌(とんこう)です。敦煌といえば、鳴沙山(めいさざん)、莫高窟(ばっこうくつ)、そして月牙泉(げつがせん)が思い浮かびます。
砂漠に湧く三日月形の泉

月牙泉は、三方を砂丘に囲まれた三日月形の小さな泉で、1000年、あるいは研究者によっては3000年もの間、一度も涸れることなく美しい姿を保ち続けてきたとされる神秘的な存在です。
1987年当時の泉の規模は、面積0.9ヘクタール、水深は最深部で9メートル、平均水深は5メートルでした。しかし、同年頃から水位の低下が目立ち始め、1997年には平均水深2メートル、浅い部分では0.9メートル、面積も0.57ヘクタールまで縮小してしまいました。
敦煌の母なる川「党河」との関係

月牙泉の縮小には、敦煌を潤す「党河(とうが)」の水利用が関係していると考えられています。党河は青海チベット高原の北に連なる礽連(きれん)山脈から流れ出し、敦煌の北にある哈拉諾爾湖(ハラノオル湖)へと注ぐ大河です。
1975年には敦煌市近郊に「党河ダム」が建設され、農業用水、工業用水、生活用水のすべてがこのダムの貯水によってまかなわれるようになりました。しかし、その結果、党河の下流への流れが減少し、地下水脈が断絶。これが月牙泉の水位低下につながったと見られています。
地元の取り組みと復活への道
敦煌市はこの事態に危機感を抱き、市民には節水を呼びかけ、事業者や農家には地下水の汲み上げ制限や計画的な灌漑の実施を促しました。
さらに2011年には、総投資額8100万元(約12億円)をかけた「月牙泉水源回復工事計画」が始動。2017年10月には工事が完了しました。施工現場は月牙泉から約10キロ離れた党河の中にあり、地下に河水を浸透させる「浸透場」を設けることで、地下水量の回復を図りました。
その結果、月牙泉は少しずつ回復し、2025年には水域面積1.83ヘクタール、平均水深3.2メートルまで復活。現在は安定した状態を保っていると報告されています。
先端技術で泉を見守る
月牙泉は高い砂丘に囲まれているため、風や砂の動きが泉に影響を与えます。そこで、砂丘の形成や変化を監視する装置が設置され、先端技術を活用したデータ解析が行われています。これにより、砂丘と泉の関係を記録したデータベースが構築され、月牙泉の保全に役立てられています。