福建省・寧徳市は三方を山に囲まれ、一方は海に面した土地。険しい自然環境は、地元の人々に外へ挑む気概を育んできました。
その地で生まれ育った盲人マッサージ師・孫伍飛(スン・ウーフェイ)さんは、鉄道開通をきっかけに故郷へ戻り、3台のベッドから始めた小さな店を、いまでは4店舗にまで拡大。30人以上の視覚障害者に働く場を提供しています。
「見えなくても、人生は輝ける」
孫さんは、サンダルと白杖、スマートフォンを頼りに、これまで29の省を鉄道で旅してきました。「世界は見えなくても、世界に自分を見てもらいたい」と語ります。
鉄道が変えた故郷と人生
かつての寧徳は、山が険しく交通が不便で、貧しい地域でした。福州へ行くにも半日、浙江省へ向かうにも山が壁となり、移動は困難でした。
2009年、温福鉄道が開通。人の流れが生まれ、経済が動き出しました。孫さんはそのタイミングで帰郷し、起業を決意します。
• 自宅の20㎡を改装し、3台のベッドで開業
• 障害者の起業支援制度により、手続きの優遇や所得税免除を受ける
• 技術が評判を呼び、2013年・2018年に新店舗をオープン
その後も鉄道網は拡大し、寧徳はリチウム電池やステンレス産業の一大拠点へと成長。地域の所得が上がり、健康志向の高まりとともに孫さんの店も繁盛しています。
孫さんはこれまでに20人以上の弟子を育て、「障害があっても社会に貢献できる」と胸を張ります。
「温かい世界だから、思い立ったら旅に出られる」
朝7時半、孫さんは白杖を頼りにバス停へ向かい、スマホの音声案内で路線を確認しながら福鼎駅へ。駅では、10年来の友人である駅員・葉耀君さんが必ず迎えてくれます。
葉さんは、豪雨の日に困っていた孫さんを助けて以来、「来る時は必ず連絡を」と約束し、10年間守り続けています。
鉄道沿線の駅員たちは「温福鉄道・愛心サービスグループ」を結成し、視覚障害者の移動を連携してサポート。孫さんは年間50回以上鉄道で移動し、「どこへ行っても温かい」と語ります。
旅と食を愛する人生
孫さんの趣味は旅とグルメ。
• 本場の蘭州牛肉麺を求めて30時間以上かけて蘭州へ
• 鍋包肉や鉄鍋炖大鹅を食べに黒竜江・ハルビンへ
• 2025年には浙江・台州の音楽フェスにも参加
これまで集めた乗車券は300枚以上。どの地でも、駅員やボランティアが自然に手を差し伸べてくれたといいます。
大連の海洋館では、職員が特別に海亀に触れさせてくれたことが忘れられない思い出だそうです。
「路は足元にある。全国を歩きたい」
孫さんのこれからの夢は、
• 子どもの日(6月1日)に杭州・西湖で舟を漕ぐこと
• 川藏鉄道が開通したら、布達拉宮を訪れること
そして何より、「障害があっても外の世界はどんどん良くなっている。勇気を出して外へ出て、人生を楽しんでほしい」と、仲間たちに伝えたいと語ります。
