幻想的でありながら、悩みも多い季節
日本の春といえば、まず思い浮かぶのはサクラです。近畿地方では3月下旬に開花し、数日を経て満開に。やがて花びらがひらひらと舞い、サクラ吹雪となって街を彩ります。川面や池に浮かぶ花筏もまた、春の風情として人々の心を癒してくれます。
一方、中国ではサクラの名所はそれほど多くありません。そのため、サクラが春の象徴になることはあまりありません。代わって春を代表するものといえば――私は「柳絮(りゅうじょ)」だと思います。柳やポプラの綿毛のことで、華北・西北の街々では4月中頃になると、まるで吹雪のように白い綿毛が舞い散ります。
柳と楊 ― 春に綿毛を飛ばす樹木
柳(しだれ柳)も楊(ポプラ)もヤナギ科の樹木です。どちらも春になると綿毛を飛ばします。 唐代の詩人・杜甫や女流詩人・薛涛も、柳絮の幻想的な姿や儚さを詠んでおり、古くから人々の心を捉えてきました。
しかし、この柳絮。見た目は美しいものの、実はなかなかの“厄介者”でもあります。
幻想的だが、実は困りもの
柳絮が舞う季節、街を歩いたり自転車に乗ったりすると、髪や衣服に綿毛がくっつきます。目や鼻に入りやすく、アレルギー体質の人は鼻水やくしゃみ、呼吸が苦しくなることもあります。そのため、この時期の中国の街では、ゴーグルやマスクを着けて外出する人が多く、日本の花粉症の光景とよく似ています。
さらに、綿毛が最盛期を迎えると、通りは落ちた柳絮で白く覆われます。清掃員が毎朝竹箒で掃き集めても、軽い綿毛は風が吹けばすぐに散らばり、元の状態に逆戻り。まさに清掃員泣かせです。
また、柳絮には脂分が多く含まれており、非常に燃えやすい性質があります。火のついたタバコの吸い殻が落ちると燃え上がることもあるそうです。洗濯物や網戸に付着したり、排水溝や空調機の室外機に詰まったりと、扱いづらく危険な面もあります。
なぜ中国の街には柳や楊が多いのか
柳絮が多いということは、街路樹や公園に柳や楊が多いということです。では、なぜこれほど多く植えられたのでしょうか。
理由は「成長の早さ」と「利用価値」にあります。 中国では建国当時、とくに華北・西北地方の森林率が低く、砂嵐に悩まされていました。そこで政府は、成長が早く建築資材としても使える柳や楊に注目し、1960年代から70年代にかけて積極的に植樹を進めました。
とりわけ文化大革命期(1960年代後半〜70年代後半)は大衆動員が容易で、「農業発展」「生活環境の改善」といったスローガンのもと、農民や労働者、市民が大量に柳・楊を植えました。
古代には人々に愛された柳・楊ですが、現代では経済的価値を期待されて大量に植えられ、その結果として柳絮の問題が生まれ、厄介者扱いされるようになったのです。 少し気の毒な気もしますし、後先を考えずに植え続けた人間側の問題とも言えるでしょう。
現在の対策と、少しの寂しさ
もちろん、現在の中国の行政も手をこまねいているわけではありません。
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綿毛がついた枝に注水して飛散を抑える
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綿毛の発生を抑える薬剤を樹木に注入する
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道路に堆積した柳絮をこまめに清掃する
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将来的には、柳絮の出ない樹木への植え替えも検討
こうした対策が進められています。 やがて北京や西安でも、柳絮が飛ばない春が訪れるかもしれません。
しかし、そうなるとまた少し寂しい気もします。 あの幻想的な光景が見られなくなるのは、どこか惜しい――そんな気持ちも湧いてきます。 これは、ただの感傷にすぎないのでしょうか。
参考資料
① japanesebeijing.gov.cn(2026.04.08) ② CGTN(2026.04.07) ③ 西部ネット(2025.04.12) ④ 北京人民政府ネット(2026.04) ⑤ 人民ネット日本語版(2025.05.17)
