いま、あなたに読んでほしい本

富坂聰『おそるべき「中国一強」時代』(小学館新書・2026年6月)

中国情勢の第一人者であるジャーナリスト・富坂聰さん(拓殖大学海外事情研究所教授)が、新著『おそるべき「中国一強」時代』を出版されました。中国の現在と未来を知るうえで、まさに必読と言える一冊です。本書の内容を章ごとに紹介します。

1.「中国一強」とは覇権ではなく“歴史の回帰”

富坂さんは、タイトルの「中国一強」は“覇権を求める中国”という意味ではないと強調します。 かつて巨大国家だった中国が、再びその姿を取り戻しつつある――その歴史的変化を伝えるための言葉だと述べています。

さらに、米中関係も従来の枠組みとは異なる「新しい段階」に入りつつあることを指摘します。 本書は、この大きな時代の転換を読み解くための案内書でもあります。

2.世界最大規模へ成長した中国の電力インフラ

第1章では、甘粛省・内モンゴル・新疆などで進む再生可能エネルギー開発の実態が紹介されています。

  • 太陽光・太陽熱・風力を組み合わせた巨大発電基地

  • 世界最大規模の送電網

  • 環境保護・経済発展・貧困撲滅を同時に進める国家プロジェクト

中国が「エネルギー大国」へと変貌している姿が、現地取材をもとに描かれています。

3.AI・自動運転・ロボット・宇宙開発の最前線

第2章は、中国の科学技術の“生の現場”を紹介する章です。

  • 世界最先端の中国製ドローン

  • 世界一の販売台数を誇る中国製EV

  • 独自の衛星測位システム「北斗」

  • 北京などで一般客が乗れる完全無人タクシー

  • 人間以上の動作が可能なヒューマノイドロボット

  • 月の裏側への探査機着陸成功など宇宙開発の躍進

通信大手「中国移動」は、6G国際標準の立ち上げ件数で世界トップと紹介され、 中国が科学技術の多方面で世界をリードしている現実が浮き彫りになります。

4.米中関係は“転換期”へ

第3章では、アメリカによる中国技術への規制・妨害の歴史が詳述されています。

●銀河号事件(1993年)

アメリカが「化学兵器原料を積んでいる」と主張し、中国貨物船のGPSを無効化。 33日間の臨検の結果、積荷は文房具や機械部品のみ。 謝罪も賠償もなく、中国は「屈辱」として記憶し、独自の衛星測位システム「北斗」開発へ踏み出しました。

●ファーウェイへの規制(2018年以降)

  • 同盟国に使用中止を働きかけ

  • 半導体輸出を厳しく制限

  • CFO孟晩舟氏の逮捕

これによりファーウェイは一時大きな打撃を受けましたが、2026年現在は独自チップとOSで復活しています。

●AI企業「DeepSeek」への妨害

NVIDIA製半導体の供給を止めようとしたものの、DeepSeekは独自に半導体を確保し高性能AIを完成。 その影響でNVIDIA株が急落したことも紹介されています。

富坂さんは、 「アメリカが中国を締め付ける → 中国は独自技術を積み上げて追いつく」 という“米中攻防の典型パターン”が繰り返されていると指摘します。

5.台湾問題――「92コンセンサス」の重み

第4章では台湾問題が扱われています。

中国は「すぐに武力で統一する」という政策を取ったことはなく、 「92コンセンサス」を基礎に、時間をかけて統一を目指す方針だと説明されています。

●92コンセンサスとは

  • 「一つの中国」を認める

  • ただし、大陸は「中華人民共和国」、台湾は「中華民国」と呼称

  • それぞれの解釈を当面容認する“緩衝装置”

富坂さんは、これを否定することは「安全装置を外すこと」だと警告します。 民進党政権はこの合意を否定し、緊張を高めていると批判しています。

6.日本の対中政策への問いかけ

第5章では、日本の対中姿勢が問われます。

高市首相の台湾海峡に関する発言や、 「台湾の法的地位を認定する立場にない」とした党首討論での発言を取り上げ、 富坂さんはこれらが中国の怒りを招いていると指摘します。

1972年、大平正芳外相は 「台湾は中国に返還されるべきもの」と明言しており、 日本の歴史的立場を曖昧にする発言は危ういと論じています。

さらに、アメリカ・中国・ロシア・EUの「グレートパワー・ゲーム」が進む中で、 戦争と直接結びついていないのは中国だけだと述べ、 日本が情勢を正しく見ていないのではないかと問題提起しています。

◆まとめ

本書は、中国の科学技術、エネルギー、外交、米中関係、台湾問題、日本外交―― これらを「現場の事実」に基づいて立体的に描いた一冊です。

中国を“脅威”として単純化するのではなく、 歴史的変化の中で何が起きているのかを冷静に見つめるための貴重な資料と言えるでしょう。