白楽天「新楽府」より二首を読む

中唐詩人・白居易(下邽の人、字は楽天、772~846)

4月16日(土)午後開催した「漢詩を読む会」は前回に続き「蚕婦詩の世界」をテーマに丹羽博之大手前大学総合文化学部教授の解説で白楽天の「新楽府」より二首を読みました。

白楽天は、十五歳の頃から科挙の受験勉強に励み二十九歳で進士科に及第、及第者中最年少であった。その後、翰林学士、左拾遺の官を歴任。四十三歳の時、母の喪が明けた翌年宰相武元衡暗殺事件が起き、犯人逮捕を上奏したことが越権行為として咎められ、江州(江西省九江)に左遷された。

左拾遺在職中から始めていた「新楽府」「秦中吟」などの諷喩詩が権力者たちからの憎しみを買っていたことも理由の一つと言われています。4月16日の漢詩を読む会では「新楽府」五十首の中から蚕婦の労苦を詠った二首、蚕桑の費を憂う「紅線毯」、女工の労を念う(おもう)「繚綾」を読みました。何れも22句、23句と長い詩であり、「紅線毯」の最後の六句を紹介します。

百夫同擔進宮中 百夫同じく担いて宮中に進む

線厚絲多巻不得 線厚く糸多くして巻き得ず

宣城太守知不知 宣城の太守知るや知らずや

一丈毯用千兩絲 一丈の毯千両の糸を用うるを

地不知寒人要暖 地は寒を知らざるも人は暖なるを要す

少奪人衣作地衣 人衣を奪いて地衣と作す少かれ

※次回「漢詩を読む会」は2022年6月11日(土)、東灘文化センター8階会議室3で開催します、テーマは決まり次第お知らせ致します。(4月16日は中国人留学生2人も参加しました)

 「漢詩を読む会」4月の日程

「漢詩を読む会」は4月16日(土)開催!参加予約受付中!

新型コロナ感染症の拡大で、2月19日(土)に予定していた「漢詩を読む会」は延期となり、4月16(土)に開催します。参加予約を受けつけています。

   「漢詩を読む会」4月の日程

  • 日時:4月16日(土)午後2時~4時
  • 会場:東灘文化センター8F第3会議室(JR住吉駅下車すぐ)
  • 講師:丹羽博之 大手前大学総合文化学部教授
  • テーマ:「蚕婦詩の世界」―その2

資料代:1,000円 定員20人

   昨年12月の「漢詩を読む会」会場風景

軽くて光沢もあり、上品な絹、それを作るには、桑を育て、葉を取り、蚕を育て蛹にし、製糸工場で仕上げるという複雑な過程を経ます。その苦労は並大抵なものではありません。その辛苦を詠んだ詩に蚕婦詩があり、日中韓で数多く詠まれています。その一斑を紹介し、当時の人々の苦労を偲びます。その貧富の差の激しさの矛盾をついたものが蚕婦詩です。

12月の漢詩を読む会は日本の外貨獲得の中心となった絹の製糸工場を描いた映画「あゝ野麦峠」の映像の一部を映し、劣悪な環境の下、厳しい労働に従事する当時の女工さんたちの状況を紹介し、澁澤栄一が書いたとされる来鵠の七言絶句「蚕婦」を読みました

12月に参加された方は当日お配りした資料をご持参下さい。初めて参加の方は当日会場でお渡しします。

会場アクセス図(東灘文化センター)

日本の日常言葉の中に生きる「漢語」

今年の干支は「壬寅」、中国の古典に虎が登場

2022年は「壬寅」(みずのえ・とら)年です。孔子の「五経」には虎が登場します。その言葉が現在の日本語の中に今も生きています。漢詩研究で知られる一海知義先生は著書「漢語の知識」の中の「虎さまざま」に書いています、その一端を紹介します。

象とちがって、虎は中国に古くからいた動物です。ライオンのいなかった中国では、虎が百獣の王でした。漢代の史書「戦国策」は「百獣長」とよび、最古の字書「説文解字」も「虎山獣ナリ」といっています。孔子が知識人必読の書として指定した五つのテキストを「五経」(易・書・詩・礼・春秋)といいますが、その中の「易経」や「礼記」に早くも虎が登場します。それだけでなく、私たちがよく知っている成語が、当時すでにできていたことがわかります。

例えば、非情な危険をおかすこと、はらはらすることを「虎の尾を踏む」といい、じっとチャンスをうかがうことを「虎視眈々」といいますが、これらはいずれも「易経」に見えることばです。また、「礼記」(檀弓篇下篇)に見えるつぎの話は「苛政ヨリモナリ」ということばとともに、よく知られています。(苛政:ひどい政治、厳しい税の取り立て)

(中略)「虎穴に入らずんば虎子を得ず」というよく使われることばは、「後漢書」という史書(五世紀の范曄著、班超伝)に見えますが、「虎を画いて狗に類る」という成語も、この史書(馬援伝)が出典です。これは、えらい人物のまねなどすると、かえって軽薄な人間になるぞ、という意味ですが落差をよく表していて、おもしろい表現だと思います。

この成語をちょっとひねって、わが国の良寛和尚(1758~1831)はつぎのような漢詩を作りました。

少年捨父走他國 少き年 父を捨てて他国に走り

辛苦畫虎猫不成 辛苦 虎を画いて 猫も成らず

有人若問箇中意 人ありて若し箇の中の意を問わば

箇是從來榮藏生 箇は是れ従来の栄蔵生

「栄蔵」は出家前の良寛の名前。虎を画いて(犬でなく)猫にもならぬというのは、何となくユーモラスで、良寛という人の楽天性をよく表しているように思います。また、20世紀になっても切れず、かつて毛沢東がアメリカ帝国主義を「張り子の虎」(紙老虎)とよんだのは、現代版の新しい成語に数えてよいでしょう。(一海知義著「漢語の知識」より)

漢詩を読む会を再開しました

来鵠の桑を採る苦労を詠った「蚕婦」を読む

第28回「漢詩を読む会」は講師の丹羽先生がケガで入院されたため9月開催を延期していました。先生が無事快復され12月4日(土)、神戸市立東灘区文化センターで約半年ぶりに開催しました。丹羽博之大手前大学教授が「蚕婦詩の世界」をテーマに講義しました。丹羽教授は、先ず絹をつくり出す厳しい労働の様子を知るためとして映画「あゝ野麦峠」の一部を映し解説しました。

当時の時代背景や製糸工場で働く女工の厳しい労働や寮生活の劣悪な環境などについて映像を見ながら話しました。澁澤栄一が掛け軸に書いたという来鵠(晩唐の詩人)の七言絶句「蚕婦」を写真で紹介し詩を読みました。

曉夕採桑多苦辛 暁夕桑を採りて苦辛多し

好花時節不閒身 好花の時節閑ならざる身

若教解愛繁華事 もし繫華の事を愛するを解せしむれば

凍殺黄金屋裏人 凍殺せん黄金屋裏の人

次回の「漢詩を読む会」は2022年2月19日(土)です。

丹羽博之教授の「漢詩を読む会」

12月は「蚕婦詩の世界」を読みます

6月19日に開催して以来コロナ感染症の拡大で休講となっていた「漢詩を読む会」は会場を変更して再開します。どなたでも参加できますのでお誘い合わせてご参加下さい。

日時:2021年12月4日(土)午後2時~4時

会場:神戸市立東灘区文化センター8F第3会議室

(JR住吉駅下車、表示に従って渡り回廊を東へ3分)

講師:丹羽博之  大手前大学総合文化学部教授

テーマ:蚕婦詩の世界

資料代:1,000円 定員:20人 マスク着用

事前に下記へご予約お願いします!

主催:日中友好協会兵庫県連合会

Tel&Fax:078-412-2228

E-mail:okmt50@nicchu-hyogokenren.net

中唐の詩人・張籍の「秋思」を読む

秋風の気配を感じ望郷の念にかられる

「張籍」(768~830?)字は文昌、和州烏江(安徽省)の人とも蘇州呉(江蘇省)の人とも言われる。汴州(河南省)における進士の予備試験で、才能を試験委員の韓愈に認められて首席に選ばれ貞元十五(799)年、31歳の時、一度で及第。国子博士、国子司業、水部員外郎などを歴官している。

韓愈門下の詩人であるが、詩風は白居易・元稹に近く、元和体という社会派の詩風を確立して同じ韓愈の党人王建と楽府に新機軸を出し、世に「張・王の楽府」と併称された。白居易からは「尤も楽府の詩を工みにす、代を挙げてその倫(ともがら)少(まれ)なり」と讃えられている。(石川忠久編「漢詩鑑賞事典」より)

秋 思(秋の思い) 張籍 七言絶句

洛陽城裏見秋風 洛陽城裏秋風を見る

欲作家書意萬重 家書を作らんと欲して意い万重

復恐怱怱説不盡 復た恐る怱怱説いて尽きざるを

行人臨發又開封 行人発するに臨んで又封を開く

・洛陽:河南省洛陽市 ・城裏:まちの中

・意萬重:つのる思いに、あれこれ書きたくなること

・怱怱(そうそう):あわただしいこと

・説不盡:言い残しがある 

・行人:旅人(ここでは手紙を託す人)

「漢詩を読む会」は現在、丹羽博之先生が怪我で入院治療中のため休講しています。心からお見舞い申し上げますと共に、一日も早いご快復をお祈り申し上げます。(漢詩を読む会参加者一同)

第28回「漢詩を読む会」

9月の「漢詩を読む会」は講師の丹羽先生がケガで入院されたため急遽中止します!

開催日間際の中止となり、参加を予定されている皆様には心よりお詫び申し上げます。講師の回復を待って、再開が可能となりましたら改めてご案内致します。

「漢詩を読む会」事務局 Tel&Fax(078)412-2228

E-mail:okmt50@nicchu-hyogokenren.net

「蚕婦詩」の世界

軽くて光沢もあり上品な絹。それを作るには、桑を育て、葉を取り、蚕を育て蛹(さなぎ)にし、製糸工場で仕上げるという複雑な経過を経る。その苦労は並大抵なものではない。その辛苦を詠んだ詩に蚕婦詩があり、日中韓で数多く読まれている。その一斑を紹介し、当時の人々の苦労を偲びたい。その貧富の差の激しさの矛盾をついたものが蚕婦詩である。(丹羽博之教授)

日時:2021年9月18日(土)午後2時~4時

会場:神戸市立東灘区文化センター8F 第5会議室

(JR住吉駅改札を出て左へ案内表示に沿って渡り回廊を徒歩5分)

講師:丹羽博之 大手前大学総合文化学部教授

資料代:1,000円 マスク着用でご参加下さい!

定員:20人

絹を作る女性たちの辛苦を詠んだ一連の漢詩がある。その詩は、唐の杜甫にその萌芽が見られ、白楽天の作品にも受け継がれ、宋の張兪「蚕婦」、謝枋得「蚕婦吟」等に詠まれ、「古文真宝(前集)」(巻一)にも無名氏「蚕婦」が収められている。

中国の漢詩、特に社会批判の詩から強く影響を受けた韓国の漢詩にも蚕婦を詠んだ作品が残る。高麗末期の李穡の「蚕婦詩」や、李氏朝鮮時代の李孟専にも「蚕婦詩」があるとされてきた。一方日本では、かなり時代が遅れ、ようやく江戸末明治初期の詩僧、釈大俊に「蚕婦詩」の作が詠まれた。その後、明治維新を経て、殖産興業の一環として、製糸業が興り、養蚕業に従事する女性たちも漢詩に詠まれた。(大手前大学論集「蚕婦詩の系譜」丹羽博之著より)

主催:日本中国友好協会兵庫県連合会「漢詩を読む会」 

連絡先:Tel&Fax:078-412-2228 (月曜日~金曜日)

E-mail:okmt50@nicchu-hyogokenren.net

韓国併合時の教育にも利用された漢詩

「少年老い易く学成り難し」の作者は日本の僧侶か?

6月19日に開催された漢詩を読む会は、「『少年老い易く学成り難し』の作者について」をテーマに、丹羽博之大手前大学総合文化学部教授が講義しました。

丹羽教授は、学校の漢文授業でこの詩は朱子の作と習ったが今では朱子の作ではないというのが定説で、日本人の偽作と言われています。朝倉和氏の国文学攷一八五号の「『少年老い易く学成り難し』詩の作者は観中中諦か」を紹介、その中で朝倉氏は、この詩は漢文入門の教材として広く人々に知られ起承句が慣用句として親しまれている。この「偶成」詩は、実は朱子(朱熹、1130~1200)の作ではなく、和製で、しかも近世初期以前の禅林僧侶の手に成るか、とセンセーショナルな発表をされたのは、柳瀬喜代志氏である。さらに、岩山泰三氏は、この詩は朱熹の詩文集に見られず、室町前期の五山詩を集成した「翰林五鳳集ー三七」に「進学軒」の題で五山僧、惟肖得巌(1360~1437)の作として収録されているこを指摘された、と記されていることを紹介しています。また柳瀬氏、岩山氏の説は出典の認定が異なっており、この作者問題はいまだに流動的で、決着がついていないような印象を受けるとも述べています。

丹羽教授は、この詩は日本統治下の朝鮮半島でも広まり、朝鮮語の「勧学歌」(恐らく日本の役人の作)にも利用され、その歌詞と楽譜を紹介し、この歌を明治期の日本の唱歌軍歌「勇敢なる水兵」(明治28年頃)のメロディで歌わせ、朝鮮支配に利用していたのだろうと語りました。また21世紀のソウルの地下鉄駅にもこの詩が掲げてあったと写真を示しながら解説しました。

「漢詩を読む会」8月はお休みで次回は9月に開催します。

「少年老い易く学成り難し」の作者は誰か

6月の「漢詩を読む会」は―少年易老学難成―の作者について丹羽博之大手前大学教授が講義します

昔学校の漢文で朱子の「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」を習った人は多い。しかし、今では朱子の作ではないというのが定説です。朱子に仮託された日本人の偽作というのです。他方、この「少年老い易く」の詩は日本統治下の朝鮮半島でも広まり、朝鮮語の「勧学歌」(恐らく日本の役人の作)にも利用され、21世紀のソウルの駅にも掲げてあったことなども紹介して頂きます。

日時:2021年6月19日(土)午後2時30分~4時

会場:日中友好協会兵庫県連合会「会議室」(阪急岡本駅西すぐ)

講師:丹羽博之  大手前大学総合文化学部教授

資料代:1,000円  マスク着用でご参加下さい

定員:15人 事前に下記へご予約下さい

日本中国友好協会兵庫県連合会

Tel&Fax: 078-412-2228

E-mail:okmt50@nicchu-hyogokenren.net

王維「田園楽」と孟浩然「春暁」を読む

唐代の自然派詩人としての王維と孟浩然

王維(699~759)、太原(山西省)の人、子供の頃から聡明をうたわれ十代で既に詩人として名を成していたことが知られている。二十一歳の若さで進士に及第。役人となった王維は気の合った友人たちと「半官半隠」の閑適の暮らしを楽しんだ。安禄山の乱により賊軍に捕まり無理やり官につけられたことが乱平定後問題となり官位を下げられたが尚書右丞(書記官長)まで進んだ。熱心な仏教信者で字を摩詰という。

「田園楽」王維 六言絶句

桃紅復含宿雨 桃は紅にして復た宿雨を含み

栁緑更帶春煙 柳は緑にして更に春煙を帯ぶ

花落家僮未掃 花落ちて家僮未だ掃わず

鶯啼山客猶眠 鶯啼いて山客猶お眠る

形式は六言絶句。これにならった詩はいくつかあるが、一般的な形式にならなかったのは、中国人のリズム感覚の中で、六言は五言や七言に比べて落ち着きが悪かったからと思われる。(石川忠久漢詩鑑賞事典より)

孟浩然(689~740)、湖北省襄陽の人、科挙に及第できず各地を放浪したり、襄陽郊外の鹿門山に隠棲していたりという生活をしていた。四十歳ころ都へ出て、王維や張九齢らと親交を結んだ。唐代の自然派詩人として王維とともに「王孟」と並称される。

「春暁」孟浩然 五言絶句

春眠不覚暁 春眠暁を覚えず

処処聞啼鳥 処処啼鳥を聞く

夜来風雨声 夜来風雨の声

花落知多少 花落つること知んぬ多少ぞ

次回「漢詩を読む会」は2021年6月19日(土)午後2:30~